国内電子書籍市場の派閥争いを巡るプレイヤーまとめ

※7月10日追記:DNPと凸版の「電子出版制作・流通協議会」追加

ちまたでは、電子書籍の話題花盛りですが、「電子出版ってどうやるの?その質問の答えを探してみました」というブログ記事にもあるように、国内ではいまだ決定版と言える電子書籍配信業社は生まれてきていません。

今後、書籍の電子化の流れは必至ななか、AmazonやAppleに代表される海外勢(黒船、という表現もアレですが)においしいとこかっさらわれないように、国内各プレイヤーの電子書籍ビジネスの利権を巡る争いが激化しつつあります。

各プレイヤーごとに徒党を組み、それぞれの立場から利権を争う様子はまさに群雄割拠!三国志もびっくりです。

今後のeBookビジネスを考えるためにもまずは、現在のプレイヤーについて私の意見も交えつつ、まとめてみたいと思います。

■大手出版社団体

電子化により間違いなく一番多くの影響を受けるであろう出版社の団体です。共通の電子出版プラットフォーム、「電子文庫パブリ」を擁しています。長い間著者印税は10%というビジネスモデルを確立して今までやってきただけに、電子書籍での著者への分配はどうなるのか気になるところです。

また、いわゆる黒船と呼ばれる外国勢の進出に対しては、窓口になることはないとのこと。つまり彼らが持っている既存のコンテンツは彼らのエコシステムの中で消費してもらいたい、ということなのでしょうか。

■専門書・実用書系出版社団体

特徴は、他団体との共存を意識しているところ。Kindle や iPad といった端末、ePubのようなフォーマットへも積極的に対応してくれそうです。

■メーカー中心他業種横断団体

  • 団体名 : 日本電子出版協会(JEPA)
  • 主な参加企業 : 128社 マイクロソフト、アドビ、モリサワ、ACCESS、大日本印刷、新潮社、などなど
  • 設立年月日 : 1986年7月4日
  • 設立目的 : 電子出版市場を立ち上げるための諸問題の解決と将来の展望を開拓、各種情報媒体の企画・編集・制作を行う

1986年に設立された電子書籍の最古参団体。電子ブックリーダーのアプリやハードを開発しているメーカー、出版社、フォントメーカー、印刷会社なども参画している一番総合的な団体のようです。

彼らは電子書籍のフォーマットであるePubの日本語組版に対しても提言「日本電子出版協会の「EPUB日本語要求仕様案」を読み解く - builder by ZDNet Japan」していたり、頻繁にセミナーなど広報活動を行っているようです。

■ソニー、凸版、KDDI、朝日新聞の新会社

4社が25%ずつ出資する形で設立予定の新会社だそうです。ソニーの名前が一番最初にくるあたり、「Reader」向けの独自プラットフォームを作りたい意図が見えます。気になるのが以下の点。

講談社や小学館、集英社など出版社も設立に賛同。日本電子書籍出版社協会代表理事を務める講談社の野間省伸副社長は「今回、配信事業に関する企画会社が設立されることをきっかけに、私ども出版社の進める電子書籍がより早く、読者の皆様のお手元に届く形が作られれば幸いです」とのコメントを出した。

(from asahi.com(朝日新聞社):電子書籍、国内でも配信 ソニー・凸版・KDDI・朝日 - ビジネス・経済)

プレスリリースにありますがこれに対して、当の日本電子書籍出版社協会側はんなこた言ってない!と一刀両断。

2010年5月27日「ソニー、凸版印刷、KDDI、朝日新聞社 電子書籍配信事業に関する事業企画会社を設立」のリリースについて

このリリースの文中に「日本電子書籍出版社協会代表理事を務める株式会社講談社野間省伸副社長からは設立趣旨に賛同~」と表記されておりますが、当協会として、本件について事前にお話をうかがっておりません。日本電子書籍出版社協会がこの新事業に賛同していると誤解を招きかねない肩書きの表現です。本プレスリリースより「日本電子書籍出版社協会代表理事を務める」の文字を削除していただけますよう協会参加31社の幹事会の総意として要請いたします。

(from EBPAJ 日本電子書籍出版社協会) この話、とても気になります。。

■総務、文部科学、経済産業主導の団体

電子書籍の著作権管理と、中間フォーマットの策定。国がやりそうなことですね。電子化後の著作権法の整備だけやってくれればいいのになあと個人的には思います。

■印刷業界主導の団体

設立趣意 3.1 日本の出版界(作家及び出版社)の長い伝統と信頼関係を尊重した電子出版流通モデルを構築することで、作家、出版社、印刷制作、流通事業者等の信頼関係により市場を発展させる構造を構築する。

(from 設立趣意|電子出版制作・流通協議会)

「電子出版制作・流通ビジネス日本モデルの確立と進化」の第一項として、既存の出版システムの枠組みを維持したまま電子書籍出版に取り組みたい趣旨が書かれています。印刷会社の中抜きはさせないぞ、ということでしょうか。また、新しいガラパゴスを生まないことを望みます。

出版にまつわる他のステークホルダー達の動き

さて、こう見ていくと、出版にまつわるいくつかの立場からの視点がすっぽ抜けてるのに気づきます。一つは著者・ライター。作家、瀬名秀明さんを中心としたAiRと言う書籍を出版した著者団体もありますが、作家中心の動きはまだ彼ら以外には見られません。

次に書店。米国ではAmazonやB&Nなど書店を中心とした出版プラットフォームが出来ています。日本でも例えば紀伊國屋書店などが主導することはあるのでしょうか?

※6/25追記 22日に総務省主催の懇談会にて、まさに紀伊國屋書店が電子書籍ストアの構想を発表しています。リンク先の資料1参照。iPhone,Android,iPad, PC向けのアプリ提供予定。紀伊国屋ならではという所は実店舗でもmicroSD形式で電子書籍を販売するところでしょうか。 Thanks to @nakazato さん!

さらに、オンラインサービス側からの攻勢もありえるでしょう。HTMLに似たマークアップ言語ePubの扱い、スマートフォンや各種専用端末での閲覧など、彼らの技術を少しスライドさせれば対応可能です。個人的に一番注目しているのは、「ブクログのパブー」です。

まとめ

国内は国内でこの調子だし、Amazon KindleとApple iBooksの戦いおよびその周りのB&NやKoboなどの各種プラットフォーム争いも熾烈を極めているようです。まさに電子書籍戦争。ブラウザ戦争を思い起こさせますが、あれよりもずっとプレイヤーが多く利権が絡み合って複雑。これからも注目していきたいと思います。

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